t-screenの日記

こんにちは!気ままなブロガーt-screenです!恋人に向けた詩や自身の頭の中で考えた物語などを発信しています!少しでも目に留まった方、空想の世界へ一緒に歩いてみませんか?

あの日入ってきた男は大金持ち 1

 

 

 

 

12月23日

クリスマス前日を控えた午後21時18分

運命の歯車が動き出した

 


明日のクリスマスイヴに向けてケーキを買って帰ってきた俺が扉をあけてみたものは

荒らされた部屋の脇にあるソファーに腰掛けテレビを見ている男だった

後ろ姿だったし、よくうちには友達が来ることも多く、不自然ではなかった。

ふざけて部屋でも荒らして不審者ごっこでもしているんだろう

俺(来るならLINEくらいしろよ、飯作るからお前も食ってくか?)

男(あー、、頂こう)

俺(ん?明らかに自分よりも年上で、聞き覚えのないおっさんの声)まさか、、

振り向いた男はその辺の道路やショッピングモールで見かけても素通りしてしまいそうなほど特徴がなく、普通だった

その特徴のなさが、今の今まで気付かなかった原因であることは、読んでいるあなたにもわかりきったことであろう。

男(死ぬか金渡すかどっちか選べ)

俺(…)

俺(…)

俺(にやけ顔)

男(何がおかしい)

男の持つ出刃包丁が電気の光でぎらついている。

俺(こんな気付かず平然とおまえと飯一緒に食おうとしてたのかと思うと、ついおかしくってな)

男(怖くて頭おかしくなっちまったようだな)

俺(まぁどうせ今から逃げようとしても後ろから刺されそうだし、死ぬ前に自分で作った飯食いてぇし、一緒にどうすか?)

クリスマス前で食材がたくさんあるし、彼女もまだ帰ってきていない

好都合が重なる

安心しようとした俺の顔が崩れるより先に

刃を振るったような鋭い叫び声が場を凍らせ

崩れるどころか硬直してしまった

男(時間稼ぎしてんじゃねぇ!長居するつもりなんてねぇんだよ!死にてぇのかてめぇ)

俺(焦るな、、元々殺すはずなら目があった瞬間にやられている、落ち着け、、落ち着け。)

俺(すみませんでした。でも今日はクリスマス前日、早く帰ってくる者や家族と過ごす者

が多いと思います。この時間にあまり大声や騒音を出すのはあなたにとっても不都合でしょう。外は寒いですしゆっくり飯でも食べた後に俺を殺しちゃって金でもなんでも奪えばいいでしょう)

男(た、たしかにそうだな、、ここ何日かまともな飯も食ってねぇし、後でゆっくり俺がお前を料理してやるとするか)

 

 

 

今にも悲惨な現場が起きてもおかしくない部屋には、ローストビーフやパスタ、グラタンなど、幸せな温かい現場で埋め尽くされていた。それはまるで長年の友人同士がパートナーがいない今年のクリスマスを愚痴でも言いながら囲む食卓そのものだった。

 


俺(ちょっと時間かかりすぎちまったな。あと30分もすれば彼女が帰ってくる。急がねぇと)

時刻は午後22時25分

彼女は最近残業が多く。また最寄りの電車の本数が少ないため、帰ってくるのが23時を過ぎることは常である。

 


俺(さぁ、食べてみてくださいよ)

男(お前男のくせにこんな料理ができるなんて、職業は料理人か何かか?)

俺(よし、時間と男の空腹感のおかげで殺意が薄れてきている)

俺(違いますよ笑明日がクリスマスなんで普段しない料理メニューをネットで事前に調べてたんすよ)

男(ほう、、そうなのか)

俺の話など全く興味がなくフォークを手に取り、パスタめがけて突き刺した。

男(うめぇ)

まるで人を食べそうな怖い形相でそう言い放った。

俺(よかったです。)

男(お前も食えよ。最後の晩餐だろ?)

苦笑いをかましながら俺も少し間隔を開けて座り、フォークを手にした

その時だった!!!

俺の腕を掴み男はこう言った、、、

 

 

 

男(それを武器にしようなんて考えるんじゃぁねぇぞ?)

あまりに急なことだったのか、俺の頭と体が分離したかのように、固まる。

男(お前はこっちだ)

渡されたのはプラスチック製のスプーンだった。

コンビニで断る理由もなくやる気のない店員の、マニュアル化された業務範囲内の一手間で渡される物だ。

俺(は、はい。)

自分から招いた奇妙とも言える晩餐会にスプーンをすくった。

 

 

 

 


料理とは不思議だ。人の感情とは関係なく

五感の一つである味覚を刺激している。

他の感覚は死ぬのを回避するのに使用している為か味覚がいつもよりも際立つ。

死ぬ前に美味しいものや懐かしいものを食べたいという人達の気持ちが、染みるように伝わり、理解できた気がする。

俺(本当に美味しい)

男(自分の飯でそこまで喜べるやつ、なかなかいねぇぞ)

男の口調が少しづつではあるが、和らいできたように感じる

共に過ごした30分前後で麻痺した感受性なのか、それとも本当に俺の料理で心和らいだのか。その答えはすぐにでも出た。

最後のグラタンを食べ終えようとした瞬間

男が首を圧迫しながら馬乗りになってきた。

 


男(死ぬ準備はできたか?)

俺(はい。もう死ぬ準備はできています)

息苦しさを抱えながら男の言う言葉をオウム返しした。

 


ガチャ、、バタン!

彼女が帰ってきた。

 


リビングに入ってきた瞬間の光景は

想像を絶するものだった。

今すぐにでも殺されそうな彼氏と

今すぐにでも殺しそうな顔をした見知らぬ男

人には2種類のパターンがある。

初めて見たものに対して瞬時に理解し、条件反射のように行動するもの

情報量の多さに圧倒され、動けずにいるもの

彼女はその後者だった。

男(変な動きしたら絞め殺す、、と言いたい所だが、俺はこいつを殺すのはやめにした)

重苦しくのしかかっていた手の荷重と腰の重圧が解けた。

意味がわからなかった。

1分と経たないうちに、先程考えていた答えにたどり着いた。

男(いきなり押しかけた不審者にあそこまでの対応。興が削がれた。通報するなり縛るなりなんでもしてくれ。)

恐るべき展開の早さに動揺したが

とにかく死への危機が去ったことに安堵し

軽くなった腰に鞭を打つかのように無言でテーブルに向かった。

なんの躊躇もなく財布にある全財産の二万円を握りしめて、手を男に伸ばした。

俺(あなたのことは通報もしませんし縛りもしません。

俺は乱暴ながら人の作った温かい料理が食べられれる心の温かい人です。

人は誰しも間違えを犯したり、困ることもあるでしょう。

今回からあなたはその選択肢を間違えただけだ。今俺が渡せる精一杯のお金です。これを受け取って人生を変えて欲しい。)

 

 

 

男もまた、無言で金を受け取り、ありがとうと言った温かい笑顔で、部屋を去った。